2012年12月24日月曜日

よみがえる、浜辺の生きもの・生態系

 12月16日(日)の午後、「第3回・フォーラム 仙台湾/海岸エコトーンの復興を考える ―浜辺の生きものからのメッセージ―」が、東北学院大学土樋キャンパスで開催されました。124名の市民、行政、企業、専門家・研究者の皆さんにご参集いただき、4時間にわたって活発な情報・意見交換がなされました。
第3回フォーラム会場の様子(2012年12月16日)

 今回のフォーラムの開催目的は、(1)仙台湾岸の浜辺で、巨大津波の痛手から立ち直ろうとしている動植物の営みをわかちあうこと、そして(2)浜辺の自然を未来世代に引き継ぐために、「復旧・復興工事と環境保全のあり方」を考えてみること、の2点でした。

 7つの 講演では、(1)浜辺の多様な生態系を構成する底生動物や植物、鳥類、昆虫に関して、「生きものの目線」に立った報告がなされ、(2)「数百年に一度という巨大津波に対する減災・防災対策」と「浜辺に固有な生きもの・環境」の両立を図るための課題が提示されました。大震災以前から継続されている長期調査データ、あるいは直後から精力的に実施された広域調査の結果などが発表され、「懸命に生き, いのちを繋ごうとしている動植物の営み」が生き生きと披露されました(第3回フォーラム発表資料)。

 さらに、講演会場の外周では、ポスターや映像による6つの発表がなされ、休憩時間を利用するなどして、活発な情報交換が進みました。
ポスター会場の様子(2012年12月16日)

 「5年間限定」という復興予算の縛りの中、仙台湾岸の海岸エコトーンでは、これまで誰も経験したことがないスピードと広がりで、地表改変や盛土が進行し、多くの生きものや生活環境が失われています。総合討論では、「ともあれ、立ち止まって考えよう!」、「多様な自然の変化をモニタリングすることが不可欠」、「自然の回復力を正しく把握し、状況に応じて順応的な復興事業を行うべきだ」、「行政・市民・専門家・企業が力をあわせて取り組むことが有効だ」という、人と自然が共存するための方向性が示されました。
総合討論の様子(2012年12月16日)


Y.H.

2012年10月16日火曜日

南蒲生モニタリングサイト、「保存すべき震災遺構」候補に!


 さる9月24日、「3. 11震災伝承研究会」は、「東日本大震災のすさまじさと教訓を後世に伝えるべく、保存すべき震災遺構」として、宮城県内46か所の構造物や自然景観をリストアップし、公開しました(http://www.tsunami.civil.tohoku.ac.jp/hokusai3/J/shinsaidensho/index.html)。
 そして、私たちが生態学的なモニタリングを実施し、調査地の存続を要望してきた「南蒲生/砂浜海岸エコトーン区域」も、「仙台市の南蒲生地区」として登録されたことが明らかになりました。
写真1. 仙台市南蒲生の鳥瞰.Google Earthの東日本大震災直後の画像.

 「3. 11震災伝承研究会」は、復興計画策定や津波被害研究などに携わっている有識者・専門家など13名から構成される学術性の高い団体とのこと。震災遺構としての「仙台市の南蒲生地区」の価値について、研究会は「仙台湾の松林を主体とする海岸林は、倒壊、破壊、流失など極めて大規模で多彩な被害を受けた。この地域は、その様相を如実に示し、津波の力がいかに巨大かを物語る。再生する自然の粘り強さ、海岸林の津波減衰効果を示す場として重要。」と述べています。
写真2. 写真1で「櫛の歯」状に樹林が残存している「内陸側の壮齢海岸林エリア」の状況. (2011年4月撮影)
写真3. 写真1でほぼすべてのクロマツが幹折・枯死した「貞山堀東側の若齢海岸林エリア」の状況. (2011年6月撮影)


 私たちも、生態系のモニタリングや保全に対して関心をお持ちの皆さんと、さらに連携を広げ、深めながら、「巨大津波による破壊とその後の自律的修復の実態」をきちんと追跡し、そして「自然と調和した復興・ふるさとづくり」に貢献したいと決意を新たにしているところです。
 皆さん、どうぞご支援下さい!

Y.H.


2012年9月25日火曜日

沿岸砂丘部に哺乳類の痕跡を確認

今回は哺乳類による痕跡をご紹介します.

貞山堀より東側の砂丘域には,かつて,クロマツの若木が優占する人工海岸林が広がっていました.巨大津波によって木々は幹折れし,枯れてしまいましたが,砂地にはクロマツの実生が残存し,自生の砂丘植物や短命な外来種が再生・侵入しつつあります.

先週末の調査時、ここで地面に掘られた穴を確認しました.どうも巣穴のように思えます.スケールがありませんが,巣穴の入り口は直径50cmほどでした.
哺乳類の巣穴?(2012年9月22日)

そして,その巣穴のすぐ近くには,哺乳類によると思われる糞が・・・.糞の長軸は10cmほどで,植物の種子がたくさん含まれていました.
哺乳類の糞(2012年9月22日)

種子を調べてみると,どうもドクウツギの種子のようです.ドクウツギは有毒植物で,人はその果実を食べてはいけないのですが,キツネや,テン,オコジョなどは餌として利用しているようです(上馬ほか 2005).巣穴や糞の形状・大きさから,これらの痕跡はキツネによるものではないかと考えています.

餌資源が不足していないのかなど気になることもありますが,津波で被災した仙台平野沿岸部で哺乳類の痕跡を確認できたことは嬉しいことでした.

この他に,貞山堀よりも内陸側の海岸マツ林にも同じように動物が地面を掘った跡がありましたが,写真の巣穴に比べると小さく,巣穴というよりも何かを探して地面を掘り返したような跡でした.

実は,キツネの巣穴は名取市の沿岸砂丘部においても確認されているようです.キツネの行動範囲は広いらしいのですが,もしかすると同じ個体かもしれません???

M.T.

2012年9月15日土曜日

ELR2012で、大津波被災海岸域の復興のあり方を再確認


2012年9月8~10日、日本緑化工学会・日本景観生態学会・応用生態工学会の合同大会(ELR2012)が東京農業大学世田谷キャンパスで開催され、参加・発表してきました。
ELR2012ポスターへのリンク(pdf)

 これら3学会はいずれも、「健全な生態系の持続・修復を視野に入れた国土のプランニング」を、学界・行政・市民の連携のもとで推進することをめざしており、今大会のメインテーマは東日本大震災に焦点をあてた「災害と自然再生」でした。口頭・ポスターによる多数の研究発表とともに、9日午後にはおよそ4時間にわたる公開シンポジウム「災害と自然再生」が、そして10日午前には「共同による震災後の生態系変化の把握 -調査データの集積と共有を可能にするプラットフォームづくりをめざして-」と題する研究集会が開催されました。
研究集会での発表の様子(2012年9月10日)


 私たち南蒲生/砂浜海岸エコトーンモニタリングネットワークのメンバーも、一般講演や研究集会で調査成果や復興事業にかかわる課題について発表し、全国から参集した専門家・NPOの皆さんと情報・意見交換を行うことができました。
 
 なかでも公開シンポジウムとその後の懇親会で、林野庁「東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討会」や、国土交通省「河川・海岸構造物の復旧における景観検討会」に関わった方々から、お考えをお聞きすることができたことは有意義でした。そして、共通する見解は、「昨年度、検討会がとりまとめた内容は、理念と指針、断面形の復興モデルである。それを被災地で具現化する、すなわち設計図として平面に落とし込む際には、住民の方々の意向や地域の自然環境に配慮した丁寧な議論・手続きが不可欠である。」というものでした。

 仙台湾岸で活動している私たちは、(1)自然環境要素の変化をきちんとモニタリングして、すばやく公開するとともに、(2)事業を担当する行政機関、被災地の住民の方々、そして日本中の専門家とますます強い連携を構築しながら、未来世代の評価に堪えうる「ふるさとの海岸エコトーン・海岸地域」の復興を支援したいと、決意を新たにしているところです。

Y.H.

2012年8月30日木曜日

昆虫班からの報告 -夜間調査-


モニタリングサイトでは、照明を使った夜間調査(ライトトラップ)をほぼ毎月行っています。明かりに飛来する昆虫を記録して、経年変化や季節消長を知る手がかりにしています。
ライトトラップ(2012年8月13日撮影)

蒸し暑い夜は昆虫の活動も活発です。この日は無数の昆虫がやって来ました。たくさんのコガネムシ類に混じって、オグラカバイロコメツキ、クロコウスバカゲロウといった、沿岸部に特有の昆虫も確認できました。ちなみにクロコウスバカゲロウの幼虫はいわゆるアリジゴクで、モニタリングサイトの砂地にすり鉢型の巣を作っているのが見られます。
飛来した昆虫(2012年8月13日撮影)

コガネムシの仲間(2012年8月13日撮影)

ここモニタリングサイトでは、マツ林を始めとする植生がかなり良く残っています。津波に見舞われた他の地区での調査と比較してみると、飛来する昆虫が種類・個体数ともに段違いに豊かです。逆に言うと、普通程度に健全な生態系が残っている場所は、他にそうたくさんはないということかもしれません。

Y.I.

2012年8月24日金曜日

ニッポンハナダカバチ、灼熱の砂浜で営巣中

巨大津波で被災し、生きものが消えてしまったかに思われた仙台湾岸の砂浜で、ハマヒルガオやハマエンドウ、コウボウムギ、ハマボウフウ,ハマニガナといった砂丘植物が少しずつ再生しつつあります。
開花中のハマヒルガオ(2012年6月23日)


ニッポンハナダカバチも、こうした特異的な海浜性植物と同様、砂漠のような砂質で高温乾燥の環境に限って生息するしたたかな昆虫です。
ミドリバエを抱えて巣口に戻って来たニッポンハナダカバチ(母バチ;2012年8月22日)


私は20数年前から毎年、ニッポンハナダカバチの生息状況を、宮城県内の大半の砂浜(島々を含む)で調べてきました。今年も6月下旬から調査を続け、ようやく県内6地区で営巣活動を確認しました。そのうち、大きな集団が形成されている地区を含む4か所は、被災以前から集団が存続している場所です。
営巣地付近の様子.およそ30巣が確認された(2012年8月22日)


ニッポンハナダカバチは、災害に出くわしても容易に別の場所に移り住むこと(移動分散)ができない、頑迷な習性を持ったハチと考えられます。砂丘生態系を構成する生物や土壌の状況、つまり餌資源(海浜性植物の花蜜と獲物としてのハエ類)および巣資源(良質な砂地)、と強く結びついて生活しているのです。

灼熱の砂浜は、私にとってはあまりに苛酷ですが、ニッポンハナダカバチの懸命な営みと砂浜の生物間のつながりに対する興味はどんどんエスカレートするばかりです。

K.G.

2012年8月22日水曜日

昆虫班からの報告 -水たまりの消長-



モニタリングサイトにはたくさんの池や水たまり、湿地があります。昨年の秋に水たまりの一つを調べたところ、ヤゴ(トンボの幼虫)やゲンゴロウの仲間、コミズムシの仲間など非常に多くの昆虫を観察することができました。これらはみな震災の後にやってきた種だと考えられ、中には希少種も含まれていました。

この水たまりと虫たちが冬を経てどうなっているのだろうかと、今年の4月に出かけてみました。そろそろ冬眠から覚めた生き物が活動を始めているはずです。

干上がった水たまり(2012年4月10日撮影)

え…? 水がない…!

じっくり探してようやく、石(下の写真の手前中央付近にあるもの)に沿った5cm×2cmくらいの水面を見つけました。しかしいくらなんでも水たまり全体の生き物がいられるほどの水の量ではないし、実際なにもいません。この時はここばかりでなく、いつも水をたたえていた広いヨシ原も乾いていました。

復活した水たまり(2012年5月31日撮影)

そして5月の終わり。水たまりを再訪すると、昨秋ほどではないけれどまた水が溜まっています。網を入れると、越冬後と思われる大きなサイズのトンボ科とイトトンボ科のヤゴが見つかりました。いったいどこにいたのでしょう。そして水中には去年見なかったカイエビの仲間がたくさん泳いでいました。

想像とは違っていましたが、こうした水たまりは毎年乾いたり溜まったりを繰り返しているのかもしれません。ある種は水のない冬の間も耐えることができ、また別の種は夏の間のすみかとして数を増やし、分散の足がかりにもして役立てているのでしょう。今年の秋はどんな生き物が見られるか楽しみです。

Y.I.


2012年7月31日火曜日

国際植生学会で南蒲生モニタリングの成果・意義を検討

 2012年7月23~28日、世界各国から300名を超える植生学研究者が韓国モッポ(Mokpo)市に集まり、第55回国際植生学会が開催されました

 私たち南蒲生モニタリングネットワークの植物・植生グループは、7月27日午前の特別セッション「SS10 Impact of the Great East Japan Earthquake and subsequent tsunami of 11 March 2011 on coastal vegetation and landscapes of Northeast Japan」で、3つの講演を行いました。

 もともとこの特別セッションは、「東日本大震災、とりわけ巨大津波が、海岸領域の自然環境や地域景観(人間の営みを含む)に与えた影響を世界に向けて紹介し、各国から参集した植生学研究者から調査・影響評価の進め方についてコメントをいただくとともに、よりよい復興を実現するための先行事例・アイデアを収集したい」との想いから、東京農業大学の中村幸人教授とともに、準備を進めてきた企画でした。正直のところ、大きな会場で、英語で発表という雰囲気に緊張してしまいましたが、セッション後の個別的交流を含めて、有意義な情報交換が実現できたと感じています。
国際植生学会での発表風景(2012年7月27日,木浦).

 なかでも、タイから参加したKitichate SRIDITH博士が発表した「2004年末、スマトラ沖地震に伴う巨大津波で被災した砂浜海岸エコトーンの植生変遷」に関する研究成果は、とても興味深いものでした。タイ南西部と東北地方太平洋岸では気候条件は大きく異なりますが汀線から沖積平野に至る砂浜海岸エコトーンの微地形や立地の推移そして植生配列には少なからぬ生態的共通性があることを認識するとともに、被災した郷土種が確実に再生していくプロセスを垣間見ることができました ・・・・・ ある高木種が、「被災後3年ほどしてからようやく、枯死状態の幹・枝から新しい枝を一斉に再生させた」というエピソードには驚かされました。
Kitichate SRIDITH博士による発表(2012年7月27日,木浦).

 海外の研究・復興事例から学ぶべきことはたくさんあり、また逆に、私たち自身の活動を世界に向けて発信していくことの重要性を感じての帰国となりました。


Y.H.

2012年6月27日水曜日

南蒲生砂浜域での植物・昆虫調査

先週末(6月15〜16日)と今週末(6月22〜24日)の2度にわたり,南蒲生の砂浜域で植物や昆虫の調査をしてきました.メンバーはIさん,Kさん,Sさん,4名の学生と私です.
旧堤防背後の窪地にて植生と昆虫の調査(2012年6月23日撮影

旧堤防付近から汀線を望む(2012年6月16日撮影)


先週末はあいにくの天気のなかの調査でレインウェアの中まで濡れてしまいましたが,今週末は幸い天気にも恵まれ,メンバーの数名は日に焼けていました.

今回,我々が調査した範囲では,コウボウムギやコウボウシバ,ハマニガナ,ハマニンニク,ウンラン,ハマボウフウなどが確認されました.調査範囲を少し外れたところではハマナスも確認されています.

ほかにも希少な昆虫なども確認されており,津波による大規模な攪乱から1年以上が経過していますが多くの生き物が砂浜海岸に戻りつつあるようです.

M.T.


調査風景(2012年6月23日撮影)

開花しているコウボウムギ(2012年6月16日撮影)

ウンラン.ハモグリバエの穿孔痕がある?(2012年6月16日撮影)

地下器官から再生したハマニガナ(2012年6月16日撮影)