2012年8月30日木曜日

昆虫班からの報告 -夜間調査-


モニタリングサイトでは、照明を使った夜間調査(ライトトラップ)をほぼ毎月行っています。明かりに飛来する昆虫を記録して、経年変化や季節消長を知る手がかりにしています。
ライトトラップ(2012年8月13日撮影)

蒸し暑い夜は昆虫の活動も活発です。この日は無数の昆虫がやって来ました。たくさんのコガネムシ類に混じって、オグラカバイロコメツキ、クロコウスバカゲロウといった、沿岸部に特有の昆虫も確認できました。ちなみにクロコウスバカゲロウの幼虫はいわゆるアリジゴクで、モニタリングサイトの砂地にすり鉢型の巣を作っているのが見られます。
飛来した昆虫(2012年8月13日撮影)

コガネムシの仲間(2012年8月13日撮影)

ここモニタリングサイトでは、マツ林を始めとする植生がかなり良く残っています。津波に見舞われた他の地区での調査と比較してみると、飛来する昆虫が種類・個体数ともに段違いに豊かです。逆に言うと、普通程度に健全な生態系が残っている場所は、他にそうたくさんはないということかもしれません。

Y.I.

2012年8月24日金曜日

ニッポンハナダカバチ、灼熱の砂浜で営巣中

巨大津波で被災し、生きものが消えてしまったかに思われた仙台湾岸の砂浜で、ハマヒルガオやハマエンドウ、コウボウムギ、ハマボウフウ,ハマニガナといった砂丘植物が少しずつ再生しつつあります。
開花中のハマヒルガオ(2012年6月23日)


ニッポンハナダカバチも、こうした特異的な海浜性植物と同様、砂漠のような砂質で高温乾燥の環境に限って生息するしたたかな昆虫です。
ミドリバエを抱えて巣口に戻って来たニッポンハナダカバチ(母バチ;2012年8月22日)


私は20数年前から毎年、ニッポンハナダカバチの生息状況を、宮城県内の大半の砂浜(島々を含む)で調べてきました。今年も6月下旬から調査を続け、ようやく県内6地区で営巣活動を確認しました。そのうち、大きな集団が形成されている地区を含む4か所は、被災以前から集団が存続している場所です。
営巣地付近の様子.およそ30巣が確認された(2012年8月22日)


ニッポンハナダカバチは、災害に出くわしても容易に別の場所に移り住むこと(移動分散)ができない、頑迷な習性を持ったハチと考えられます。砂丘生態系を構成する生物や土壌の状況、つまり餌資源(海浜性植物の花蜜と獲物としてのハエ類)および巣資源(良質な砂地)、と強く結びついて生活しているのです。

灼熱の砂浜は、私にとってはあまりに苛酷ですが、ニッポンハナダカバチの懸命な営みと砂浜の生物間のつながりに対する興味はどんどんエスカレートするばかりです。

K.G.

2012年8月22日水曜日

昆虫班からの報告 -水たまりの消長-



モニタリングサイトにはたくさんの池や水たまり、湿地があります。昨年の秋に水たまりの一つを調べたところ、ヤゴ(トンボの幼虫)やゲンゴロウの仲間、コミズムシの仲間など非常に多くの昆虫を観察することができました。これらはみな震災の後にやってきた種だと考えられ、中には希少種も含まれていました。

この水たまりと虫たちが冬を経てどうなっているのだろうかと、今年の4月に出かけてみました。そろそろ冬眠から覚めた生き物が活動を始めているはずです。

干上がった水たまり(2012年4月10日撮影)

え…? 水がない…!

じっくり探してようやく、石(下の写真の手前中央付近にあるもの)に沿った5cm×2cmくらいの水面を見つけました。しかしいくらなんでも水たまり全体の生き物がいられるほどの水の量ではないし、実際なにもいません。この時はここばかりでなく、いつも水をたたえていた広いヨシ原も乾いていました。

復活した水たまり(2012年5月31日撮影)

そして5月の終わり。水たまりを再訪すると、昨秋ほどではないけれどまた水が溜まっています。網を入れると、越冬後と思われる大きなサイズのトンボ科とイトトンボ科のヤゴが見つかりました。いったいどこにいたのでしょう。そして水中には去年見なかったカイエビの仲間がたくさん泳いでいました。

想像とは違っていましたが、こうした水たまりは毎年乾いたり溜まったりを繰り返しているのかもしれません。ある種は水のない冬の間も耐えることができ、また別の種は夏の間のすみかとして数を増やし、分散の足がかりにもして役立てているのでしょう。今年の秋はどんな生き物が見られるか楽しみです。

Y.I.