2013年7月16日火曜日

南蒲生モニタリングサイト内の湿地周辺の変化

 定点撮影はその場の変化を表すのに有効な手段ですが,いざ実行するとなると撮影機器の設置方法や電源,天候などの諸条件を考え始めてしまいます.「なかなか難しいな・・・」などと考えているうちに時間だけが過ぎていき,せっかくのチャンスを逃してしまうこともしばしばです.そもそもの目的は変化の記録なのですから,細かいことを気にせずに実行するのが大事かもしれません.

 今回は幸いにも,ほぼ同じ場所から同じ方角を撮影した写真が3枚ほどありましたので,ご紹介します.定点撮影を意図してはいませんでしたので,撮影間隔は一定ではなく,撮影範囲も少しずれています.

震災後2ヶ月が経過したサイト内の湿地周辺(2011年5月14日)
震災から2ヶ月が経過した南蒲生モニタリングサイト内の湿地の様子です.貞山堀の堤防から西側(内陸側)を撮影しました.写真中央のヨシが芽吹いているあたりは震災前から湿地だった場所ですが,その奥はクロマツ林でした.津波によって倒されたクロマツの幹が目立ちます.その合間には芽吹きはじめた広葉樹も見えます.写真手前の左側にはまだ緑色のクロマツの落枝が,写真中央右側のクロマツ樹冠下にヤダケが確認できます(タケ・ササ類は浸水後に葉が変色したものが多いようです).

震災後3ヶ月が経過したサイト内の湿地周辺(2011年6月10日)
 さらに1か月後の様子です.ヨシが成長し,倒木クロマツの合間に見える広葉樹の緑が増えています.クロマツの落枝は枯れ,ヤダケが展葉し始めているように見えます.風雨による浸食のせいか,キャタピラ跡は消えました.

震災後2年4ヶ月が経過したサイト内の湿地周辺(2013年7月7日)
 ひとつ前の写真から2年とひと月が経過しました.ヨシを始めとする様々な抽水植物が繁茂し,クロマツの倒木は広葉樹に覆われて確認できなくなりました(広葉樹にはハリエンジュも含まれますが).手前にはクロマツ実生をはじめ複数種の植物が新たに定着していることが分かります.ヤダケは青々と茂る一方で,一部のクロマツ林冠木は立ち枯れているようです.

 ほぼ同じ場所から何度か撮影しておくだけで,植生の変化がある程度わかりますね.機会があったら,サイト内で撮影された写真を集めて,様々な場所の時間的変化を確認するのもよさそうです・・・.


 現地の皆さんが主体となって様々な分類群の生物相モニタリングを進めているところですが,絶滅の恐れがある生物として環境省や宮城県のレッドデータブックに掲載されている種がサイト内外で複数確認されています.また,猛禽類がこれらの環境を利用していることも明らかになっており,その場を保全することの重要性はますます高まってきているようです.仙台平野沿岸部にわずかに残った海岸林や後背湿地などの様々な生態系が連続していることも,その価値を高めているのかもしれません.

 地域の皆さんの生活を守ることは重要です.災害に対して安全・安心であることはもちろん大事ですが,安寧・幸福な生活には多様な生物・生態系も欠かせないように思えてなりません.

M.T.

撮影場所:

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2013年5月2日木曜日

懐かしい出会い


鳥類班です。
月1回実施している鳥類調査を4月28日の早朝に行ないました。

倒れたままのヤマザクラが林内のあちこちで花をつけていました。
開花したヤマザクラ(2013年4月28日)

鳥の世界では、今頃はちょうど春の渡りの最中にあたります。
東南アジア方面など暖かい地方で冬越ししていた鳥たちは、子育てのため山地などへ移動していく際に低地の林に寄り道していくことが多いので、海岸林でも思いがけない鳥を見かけてちょっと得した気分になったりする時期です。
でも、この日は夜明け前からの強風が災いしたのか、楽しみにしていた渡り鳥のさえずりも聞こえず、鳥の姿も少なめでした。

そんな中、とても嬉しくなる出会いがありました。
クロジ(2013年4月28日)

ホオジロの仲間の小鳥、クロジです。
被災後初めて海岸林で出会うことができました。

クロジは林床にササが生い茂る針広混交林で繁殖します(茂田1995)。宮城県では山地のブナ林などで夏にさえずりを耳にしますし、つい最近改訂された県レッドリストにも掲載されていないので、そんなに珍しい鳥とは言えないのかもしれません。しかし、Brazil (2009)や日本鳥学会(2012)などを見ると、クロジの繁殖地は北日本のほかサハリン、カムチャツカ半島南部から千島列島にかけての非常に狭い範囲だけで、越冬地も中部日本から琉球列島までの間に限られるようです。その点では日本が誇る貴重な鳥のひとつと言えるのではないでしょうか。

東日本大震災より前にモニタリングサイトの近くで私が行なっていた調査では、クロジは春と秋の渡りの時期にたくさん現われる種でしたが、常緑樹の薄暗い茂みや薮を好むため、それらが津波ですっかり流されてしまってからは、心配したとおり全く見ることができなくなってしまいました。私にとって、在りし日の海岸林の記憶と最も強く結びついている鳥です。
近ごろは広葉樹の低木が少しづつ繁茂してきたせいか、被災後に調査を始めた頃に比べ、現われる鳥の種類や数がわずかながら変化している気がします。鳥たちが林を見る目も少し変わってきたのかもしれません。

さて、茂みを好むクロジがどんなところで見られたかというと・・・
津波で倒されたクロマツの樹冠や根から構成される,クロジが利用した環境(2013年4月28日)

こんなところです。
大きなクロマツが押し倒されて根が剥き出しになり、そこに大小のクロマツの幹や樹冠などが引っかかって堆積し、あちこちに隙間ができています。その隙間を3羽のクロジと2羽のアオジが盛んに出入りしていました。
この場所では、やはり被災後見かけなくなっていたシロハラ(先月にようやく発見)の他、ウグイスやミソサザイなど、薮や薄暗い茂みを好む鳥がよく目につきます。こうした鳥たちにとって、茂みが大きく育つまで、それに代わる拠り所となっているようです。

低木が繁茂してきたとは言え、その多くはニセアカシアなので、手放しで喜ぶわけにもいきませんが、いずれ様々な落葉樹や常緑樹が生長するようになると、かつての海岸林で見られていた鳥たちが他にも戻ってきそうです。その日が遠くないといいのですが・・・。
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鳥以外では、こんなものを見つけました。
何者かによる食痕(2013年4月28日)
サクラの枝の食痕とスケールのボールペン(2013年4月28日)



枯れたサクラの枝を何かが齧ったようです。ネズミにしては齧り方が大きいような・・・。
お分かりの方がいらしたらぜひお教えください。

H.S.

2013年2月11日月曜日

おめでとう! 平吹喜彦さんが日本自然保護協会沼田眞賞受賞


 南蒲生モニタリングネットワークの世話人会代表の平吹喜彦さんが、公益財団法人日本自然保護協会(NACS-J)の沼田眞賞を受賞されました。去る201323日に、東京の
清澄庭園大正記念館で授賞式と記念講演が行なわれました。
受賞記念講演(2013年2月3日)
授賞式会場となった大正記念館(2013年2月3日)

 自然保護や生態学に関わった方であれば、「沼田眞」の名前を知らない人はいないでしょう。平吹さんも受賞講演のときには「神様みたいな方」と表していらっしゃいました。沼田眞氏は、生態学が専門で、長く千葉大学の教授を務められ、日本生態学会長、日本植物学会長、日本環境教育学会長、そして日本自然保護協会長などを歴任されました。特に、198090年代のNACS-Jは、当時の沼田眞会長のもとで、白神山地のブナ林、石垣島の白保サンゴ礁、長野五輪のスキー滑降競技会場といった数々の保護問題に取り組み、IUCNのレッドデータブックやUNESCO世界遺産条約などを日本に紹介して、日本の自然保護を国際的な水準に持ち上げました。研究者と自然保護活動家の2つのスタンスを忘れず、生態学者として客観的な論理と、NGO会長として誰に対しても自然を守ることの大切さを真っ直ぐに訴えていました。2001年、NACS-J創立50周年の記念に、研究と保護活動を両立させている人物・グループを応援したいと始まったのが、「沼田眞賞」です(NACS-JWebページより)。

 2001年からこれまでに910団体が受賞していますが、平成24年度は5件の受賞がありました。今年度の沼田眞賞は、通常の活動に対する表彰とともに、東日本大震災関連の特別枠が設けられ、平吹喜彦さんはその特別枠での受賞(1名)となりました。受賞理由は、次のとおりです。
 20113月の東日本大震災の後、いち早く、仙台市宮城野区南蒲生(新浜地区)の砂浜海岸域で生態系モニタリングを開始し、自然修復を尊重した多様性・多機能海岸エコトーンの創出、ふるさとの自然と人(社会)の豊かさが持続しうる復興に向けた提案をしている。海岸部の被災地で復旧という名の下に大規模な防潮堤工事が進んでいるが、再生しつつある野生動植物に配慮した復興や工事を訴える平吹氏の主張は生物多様性や生態系に配慮した復興を進めるために重要である。

 現在、仙台平野の海岸エコトーンで繰り広げられている大規模な震災復興事業に関して、地元の研究者をまとめて、沼田眞賞の趣旨である研究と保護活動を両立し、調査研究結果に裏付けられた自然環境・生物多様性の保全を行政など関係機関に訴えている活動が認められたものと思われます。震災直後から一緒にモニタリングネットワークとして活動してきた私たちとしても、とても嬉しく思います。復興事業と自然環境の保全との軋轢は、ここにきて非常に大きくなりつつあります。この受賞をバネにして、平吹さん、そしてネットワークの活動が大きな弾みになることを祈りたいと思います。平吹さん、受賞おめでとうございます。
清澄庭園のフクジュソウ(2013年2月3日)
清澄庭園の冬ボタン(2013年2月3日)

なお、当日の授賞式後の記念講演は、インターネットで公開されており、ustreamでご覧になることができます。

K.H.