2013年5月2日木曜日

懐かしい出会い


鳥類班です。
月1回実施している鳥類調査を4月28日の早朝に行ないました。

倒れたままのヤマザクラが林内のあちこちで花をつけていました。
開花したヤマザクラ(2013年4月28日)

鳥の世界では、今頃はちょうど春の渡りの最中にあたります。
東南アジア方面など暖かい地方で冬越ししていた鳥たちは、子育てのため山地などへ移動していく際に低地の林に寄り道していくことが多いので、海岸林でも思いがけない鳥を見かけてちょっと得した気分になったりする時期です。
でも、この日は夜明け前からの強風が災いしたのか、楽しみにしていた渡り鳥のさえずりも聞こえず、鳥の姿も少なめでした。

そんな中、とても嬉しくなる出会いがありました。
クロジ(2013年4月28日)

ホオジロの仲間の小鳥、クロジです。
被災後初めて海岸林で出会うことができました。

クロジは林床にササが生い茂る針広混交林で繁殖します(茂田1995)。宮城県では山地のブナ林などで夏にさえずりを耳にしますし、つい最近改訂された県レッドリストにも掲載されていないので、そんなに珍しい鳥とは言えないのかもしれません。しかし、Brazil (2009)や日本鳥学会(2012)などを見ると、クロジの繁殖地は北日本のほかサハリン、カムチャツカ半島南部から千島列島にかけての非常に狭い範囲だけで、越冬地も中部日本から琉球列島までの間に限られるようです。その点では日本が誇る貴重な鳥のひとつと言えるのではないでしょうか。

東日本大震災より前にモニタリングサイトの近くで私が行なっていた調査では、クロジは春と秋の渡りの時期にたくさん現われる種でしたが、常緑樹の薄暗い茂みや薮を好むため、それらが津波ですっかり流されてしまってからは、心配したとおり全く見ることができなくなってしまいました。私にとって、在りし日の海岸林の記憶と最も強く結びついている鳥です。
近ごろは広葉樹の低木が少しづつ繁茂してきたせいか、被災後に調査を始めた頃に比べ、現われる鳥の種類や数がわずかながら変化している気がします。鳥たちが林を見る目も少し変わってきたのかもしれません。

さて、茂みを好むクロジがどんなところで見られたかというと・・・
津波で倒されたクロマツの樹冠や根から構成される,クロジが利用した環境(2013年4月28日)

こんなところです。
大きなクロマツが押し倒されて根が剥き出しになり、そこに大小のクロマツの幹や樹冠などが引っかかって堆積し、あちこちに隙間ができています。その隙間を3羽のクロジと2羽のアオジが盛んに出入りしていました。
この場所では、やはり被災後見かけなくなっていたシロハラ(先月にようやく発見)の他、ウグイスやミソサザイなど、薮や薄暗い茂みを好む鳥がよく目につきます。こうした鳥たちにとって、茂みが大きく育つまで、それに代わる拠り所となっているようです。

低木が繁茂してきたとは言え、その多くはニセアカシアなので、手放しで喜ぶわけにもいきませんが、いずれ様々な落葉樹や常緑樹が生長するようになると、かつての海岸林で見られていた鳥たちが他にも戻ってきそうです。その日が遠くないといいのですが・・・。
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鳥以外では、こんなものを見つけました。
何者かによる食痕(2013年4月28日)
サクラの枝の食痕とスケールのボールペン(2013年4月28日)



枯れたサクラの枝を何かが齧ったようです。ネズミにしては齧り方が大きいような・・・。
お分かりの方がいらしたらぜひお教えください。

H.S.